×

事業承継とは?わかりやすく解説

事業承継とは会社を次世代に引き継ぐこと 事業承継とは、経営者...

事業承継とは?わかりやすく解説

事業承継とは会社を次世代に引き継ぐこと

事業承継とは、経営者が会社の経営を後継者に引き継ぐことです。

日本企業の99%を占める中小企業は、雇用や技術の担い手として日本経済を支える存在であり、これらの会社を次世代につなぐことは極めて大切な取り組みとなっています。

経営者の交代に伴い、株式や資産だけでなく、長年培ってきた技術やノウハウ、取引先との関係性なども含めて総合的に引き継ぐ必要があります。

事業承継は単なる代表者の交代ではなく、会社の持つあらゆる価値を未来へつなぐ経営者の大きな決断です。

事業承継の定義と基本的な意味

事業承継では、経営者が持つ経営権(株式)、事業資産、知的資産という3つの要素を後継者へ引き継ぎます。

経営権の承継では、代表取締役の地位と役割を後継者に託します。

事業資産の承継では、設備や不動産、資金といった目に見える財産を引き渡すのです。

知的資産の承継には、経営理念や経営者の信用力、ブランド、独自のノウハウ、技術、人材や人脈などが含まれます。

これらは数字では測れませんが、会社の存続と成長には欠かせない要素といえます。

事業承継が求められる背景

中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、経営者年齢のピークはこの20年間で50代から60〜70代へと大きく上昇しています。

後継者の不在状況は深刻であり、廃業の大きな要因の一つになっているのが現状です。

廃業理由の3割が後継者難によるものとされており、このまま放置すれば日本経済を支える貴重な雇用や技術が失われる可能性があります。

一方で、事業承継による世代交代は企業の成長につながることも明らかになっています。

事業承継後3年目以降からは売上高成長率が同業種平均を上回るという調査結果もあり、事業承継は会社の新たな発展の契機となり得ます。


事業承継で引き継ぐ3つの要素

事業承継を成功させるには、経営権・資産・知的資産という3つの構成要素をバランスよく引き継ぐことが求められます。

いずれか一つでも欠けると、承継後の経営が不安定になる恐れがあるのです。

経営権の承継

経営権の承継では、代表取締役の地位と役割を後継者へ引き継ぎます。

株主総会を経て代表取締役を選任し、役員変更登記などの法的な手続きを行います。

経営権を移すには、後継者が会社の筆頭株主となり、過半数以上の議決権を持つ必要があります。

親族内承継の場合は相続や贈与により株式を移転しますが、その際には贈与税や相続税が発生する点に注意が必要です。

第三者への承継では、株式譲渡や事業譲渡といった手法を用い、対価を受け取りながら経営権を移します。

いずれの方法でも、後継者が安心して経営できる体制を整えることが大切です。

資産の承継

資産の承継では、株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入金等)、許認可などを引き継ぎます。

特に個人事業主の場合、事業用資産の分散リスクが大きな課題となります。

資産を円滑に引き継ぐには、個人資産と会社資産を明確に区別し、事前に整理しておくことが欠かせません。

遺言を作成する、株式の評価額を把握するなど、専門家の助言を受けながら計画的に準備を進めましょう。

負債の承継についても考慮が必要です。

借入金や経営者保証がある場合、後継者の負担を減らすため、金融機関と事前に相談しながら対応策を検討することが望ましいといえます。

知的資産の承継

知的資産とは、経営理念や経営者の信用力、ブランド、独自に築いたノウハウ、長年培ってきた技術、育てた人材、取引先をはじめとした人脈などを指します。

これらは目に見えにくいものの、会社の競争力を支える核となる要素です。

経営理念や企業文化を後継者に伝えるには、日々の経営の中で価値観を共有し、時間をかけて育成する必要があります。

中小企業庁では、知的資産を後継者に伝える方法として「知的資産経営報告書」の作成を推奨しています。

技術やノウハウの承継も見逃せません。

熟練した社員から若手への技能伝承、マニュアル化が難しい暗黙知の共有など、意識的に取り組むことで会社の強みを次世代へつなぐことができます。


事業承継の3つの種類と特徴

事業承継は、引き継ぐ先によって親族内承継、従業員承継、M&A(社外への引継ぎ)に分類されます。

それぞれに特徴があり、会社の状況や後継者候補の有無によって選択する方法が異なります。

親族内承継

親族内承継とは、経営者の子どもや孫など親族に事業を引き継ぐ方法です。

心情面や長期間の準備期間確保がしやすく、相続等による財産・株式の後継者移転が可能といった背景から、所有と経営の一体的な承継が期待できます。

従業員や取引先からも受け入れられやすく、社内外の理解を得やすい点も利点といえます。

早い段階から後継者を確定できれば、十分な時間をかけて後継者教育を行うことが可能です。

親族内承継のメリット

親族内承継の最大のメリットは、後継者を早期に決定でき、時間をかけて育成できることです。

社内での地位向上も比較的スムーズに進み、従業員や取引先の理解も得やすくなります。

相続や贈与により株式を移転できるため、資金面での負担を抑えられる可能性があります。

事業承継税制を活用すれば、贈与税や相続税の納税猶予を受けることもできるのです。

会社の経営方針や企業文化を維持しやすく、取引先との関係性を継続できる点も見逃せません。

長期的な視点での事業承継計画を立てられます。

親族内承継のデメリット

親族に経営の資質と意欲を併せ持つ候補者がいるとは限りません。

複数の親族がいる場合、後継者の決定や株式の集中が難しくなることもあります。

相続時に株式が分散すると、経営権が安定せず、意思決定に支障が出る恐れがあります。

親族間での相続争いが生じる可能性にも注意が必要です。

後継者が若い場合、経営能力が十分に育つまで時間がかかります。

その間、現経営者がサポートし続ける必要があるでしょう。

社内承継(従業員承継)

社内承継とは、会社の役員や従業員に事業を引き継ぐ方法です。

経営者能力のある人材を見極めて承継することができ、長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を期待できます。

社内で育った人材なので、会社の事業内容や取引先、従業員のことをよく理解しています。

社内での信頼関係も築かれており、承継後の経営がスムーズに進みやすいといえます。

社内承継のメリット

会社の事業や企業文化を深く理解している人材に承継できるため、経営の継続性が保たれます。

従業員からの信頼も厚く、社内の士気低下を防げるでしょう。

親族内に適任者がいない場合でも、能力と意欲のある人材を後継者に選べます。

長年の勤務実績から経営者としての適性を見極めやすい点も利点です。

社内承継を公表することで、優秀な人材の定着にもつながります。

将来の経営幹部候補として意識が高まり、組織全体の活性化が期待できます。

社内承継のデメリット

従業員が株式を買い取る資金を用意できないケースが多く、資金調達が大きな課題となります。

MBOやEBOといった手法を活用しても、金融機関からの借入が必要になる場合があります。

個人保証の引継ぎも問題です。

後継者となる従業員が経営者保証を負うことに抵抗を感じ、承継を躊躇するケースも少なくありません。

株式の取得に伴う贈与税や相続税の負担も生じます。

現経営者が無償で株式を譲渡すると、後継者に多額の税金が課される可能性があるのです。

M&Aによる承継

M&Aとは、親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を求めることができる方法です。

会社や事業を第三者に売却し、対価を得ながら経営を引き継ぎます。

M&A後も8割以上のケースで従業員の雇用が完全に維持されています。

譲受側にとって、引き継いだ事業を維持・発展させるには従業員の活躍が欠かせないためです。

M&Aのメリット

後継者がいない場合でも、事業を継続できる点が最大のメリットです。

広く買い手を探せるため、会社の成長につながる相手を見つけられる可能性があります。

現経営者は会社売却の利益を得ることができ、引退後の生活資金を確保できます。

個人保証からも解放され、経営のリスクから解放されるのです。

シナジー効果により、譲受側の経営資源を活用して事業を拡大できる場合もあります。

従業員にとっても、より安定した雇用環境や成長機会が得られる可能性があります。

M&Aのデメリット

買い手探しに時間がかかり、必ずしも希望する条件で成約できるとは限りません。

仲介会社への手数料など、費用も発生します。

従業員や取引先への影響を慎重に考える必要があります。

経営方針の変更により、企業文化が変わる可能性もあるでしょう。

M&Aの交渉過程で会社の情報が外部に漏れるリスクもあります。

秘密保持契約を結ぶなど、情報管理には細心の注意を払わなければなりません。


事業承継の進め方と手順

事業承継には長い準備期間が必要であり、一般的に5年から10年程度を要するとされています。

計画的に進めることで、トラブルを避け、円滑な承継を実現できます。

事業承継計画の策定

事業承継計画とは、いつ、誰に、どのように事業を引き継ぐかを明確にした計画書です。

現状の把握から始め、承継の時期、後継者候補、承継方法、具体的なスケジュールを定めます。

会社の現状を正しく把握するため、財務状況の分析、株式の所有状況の確認、経営課題の洗い出しを行います。

自社の強みと弱みを明らかにすることで、承継に向けた課題が見えてきます。

事業承継計画には、後継者の育成計画や株式移転のスケジュール、税金対策なども盛り込みます。

専門家の助言を受けながら作成すると、実現可能性の高い計画になるでしょう。

後継者の選定と育成

後継者の選定では、経営者としての資質、経営への意欲、健康状態、年齢などを総合的に判断します。

親族内承継の場合でも、複数の候補者がいれば慎重に見極める必要があります。

後継者教育には十分な時間をかけることが大切です。

社内の各部門を経験させ、経営の実務を学ばせます。

社外での修業や経営セミナーへの参加も有効な育成方法といえます。

段階的に権限を委譲し、後継者が意思決定の経験を積めるようにします。

失敗から学ぶ機会も与えながら、経営者としての判断力を養っていくのです。

資産の整理と評価

株式の評価額を把握することは、税金対策や承継方法を検討する上で欠かせません。

税理士などの専門家に依頼し、適正な評価を行います。

個人資産と会社資産の区分を明確にし、必要に応じて整理します。

経営者個人が会社に貸し付けている資金や、会社名義の資産を整理することで、承継がスムーズに進みます。

負債の状況も確認し、できる限り整理しておくことが望ましいでしょう。

経営者保証については、金融機関と相談しながら解除や変更の手続きを進めます。


事業承継を成功させるポイント

事業承継の成功には、早期の準備開始と計画的な実行が欠かせません。

専門家の力を借りながら、関係者全員の理解と協力を得ることが大切です。

早期の準備開始が大切

事業承継には想像以上に時間がかかります。

後継者の育成だけでも数年を要し、株式の移転や税金対策にも長期的な準備が必要です。

経営者が60歳を迎えたら、事業承継について具体的に考え始めるとよいでしょう。

健康なうちに準備を始めることで、選択肢も広がり、より良い承継方法を選べます。

「まだ早い」と先延ばしにすると、突然の病気や事故で準備不足のまま承継せざるを得なくなる恐れがあります。

計画的に進めることでリスクを減らせるのです。

専門家への相談活用

事業承継には法律、税務、会計など専門的な知識が必要となります。

税理士、弁護士、公認会計士、中小企業診断士など、それぞれの分野の専門家に相談することで、適切な対策を講じられます。

事業承継・引継ぎ支援センターなど公的な相談窓口も活用できます。

無料で相談でき、各種支援制度の情報も得られるため、まずは気軽に相談してみるとよいでしょう。

専門家のネットワークを活用することで、M&Aの相手探しや金融機関との交渉もスムーズに進みます。

早い段階から専門家と関係を築いておくことが成功への近道です。

関係者への周知と合意形成

事業承継は経営者と後継者だけの問題ではありません。

従業員、取引先、金融機関など、多くの関係者に影響を与えます。

従業員への説明は特に大切です。

後継者が決まったら適切なタイミングで公表し、不安を解消します。

従業員の理解と協力がなければ、承継後の経営は困難になるでしょう。

取引先や金融機関にも事前に説明し、信頼関係を維持します。

承継後も変わらぬ取引を続けてもらえるよう、丁寧なコミュニケーションを心がけることが求められます。


事業承継の支援制度

国や地方自治体は、中小企業の事業承継を後押しするため、さまざまな支援制度を用意しています。

これらを上手に活用することで、承継時の負担を軽減できます。

事業承継税制の概要

事業承継税制とは、中小企業の円滑な事業承継を支援するため、非上場会社の株式に係る相続税・贈与税の納税が猶予及び免除される制度です。

平成30年度税制改正で特例措置が創設され、10年間限定で大きく拡充されました。

特例措置では対象株式数の上限を撤廃し、猶予割合を100%に拡大することで、承継する株式にかかる贈与税・相続税のすべてが納税猶予の対象となりました。

特例措置を活用するには、平成30年4月1日から令和8年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。

また、平成30年1月1日から令和9年12月31日までに贈与・相続により株式を取得した経営者が対象です。

適用後は5年間、都道府県へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を毎年提出する必要があります。

5年経過後も3年に1回の報告が求められるため、継続的な手続きが必要です。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、47都道府県に設置されており、後継者未定または不在の中小企業・小規模事業者に対して、専門家が事業承継・引継ぎに係る課題解決に向けた助言、情報提供及びマッチング支援を行っています。

親族内承継、社内承継、M&Aなど、あらゆる承継方法の相談に無料で応じてくれます。

後継者人材バンクでは、創業を目指す起業家と後継者不在の会社をマッチングする支援も行っています。

全国のセンター間で情報を共有しており、広域的なマッチングも可能です。

秘密厳守で相談できるため、安心して利用できる公的機関といえます。

補助金や融資制度

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継を契機に経営革新や事業転換に挑戦する中小企業を支援する制度です。

設備投資や販路拡大に必要な経費の一部が補助されます。

日本政策金融公庫では、事業承継に必要な資金の融資を行っています。

自社株式の買取資金や納税資金など、承継時の資金需要に対応した融資制度が用意されています。

経営承継円滑化法に基づく認定を受けると、信用保証枠の拡大や低利融資など、さまざまな金融支援を受けられます。

資金面での不安を軽減する制度が整っているのです。